昨日は株式の時価総額について、ご説明しましたが、それをさらに一歩進めて、本日は「株式の浮動株時価総額」についてご説明します。
株式の時価総額とは?(おさらい)
おさらいですが、株式の時価総額は、
株式の時価総額 = 株価 ✕ 発行済株式数
として表されるものでした。
では、浮動株時価総額というのは一体なんでしょうか?
浮動株とは?浮動株時価総額とは?
浮動株時価総額についてご説明する前に、まず浮動株についてご説明します。
以下、東京証券取引所の資料から引用させて頂きます。
浮動株とは、「実際に市場で売買される可能性の高い株式」のことです。言い換えれば、「上場株式から、大株主の保有株など市場で売買される可能性が低い固定的所有株を除いたもの」 と言うこともできます。
浮動株(ふどうかぶ)という言葉は、あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、普段から取引所で売買される可能性の高い株式で、普通の個人投資家や機関投資家が売買して、一時的に所有している株式は基本的に浮動株になります。
一方、浮動株の反対は固定株(こていかぶ)と呼ばれ、取引所で売買される可能性が低い、長期的に所有され続けるであろう株式のことです。
そして、この浮動株という考え方を使って、浮動株時価総額は次のように計算されます。
株式の浮動株時価総額
= 株価 ✕ 浮動株数
= 株価 ✕ (発行済株式数 ー 固定株数)
この説明だけだと分かりづらいと思いますので、具体例を見てみましょう。
日本たばこ産業(JT)の場合
日本たばこ産業(JT)の場合、以下の通り、発行済株式数は20億株となっており、株主数は205,939名となっています。
単純に、発行済株式数を株主数で割ると、
20億株 ÷ 205,939名 = 9711.6株
となりますので、ざっくり計算すると、株主一人あたり、9,711株くらい持っていることになります。
次に、日本たばこ産業の大株主を確認しましょう。
最大の株主は財務大臣で、約6.6億株と発行済株式数の33.35%を所有しています。
財務大臣が、日々、日本たばこ産業の株式を売買するとは思えませんから、財務大臣が所有している株式は、浮動株ではなく、固定株となります。
また、上の表の欄外には「自己株式が208,956,589株」とありますが、これは日本たばこ産業自身が所有している”自己株式”で、これも日々売買されることはありません。つまり、この約2億株も固定株ということになります。
他にも、固定株はあると思いますが、ここでは、いったん、財務大臣および日本たばこ産業自身が所有している株式のみが固定株だと仮定して、浮動株数を計算してみます。
発行済株式数 = 浮動株数 + 固定株数
ですから、日本たばこ産業の場合
浮動株数
= 発行済株式数 ー 固定株数(財務大臣および自社の所有分)
= 2,000,000,000 ー (666,926,200 + 208,956,589)
= 1,124,117,211
となります。
つまり、日本たばこ産業の株価が、仮に3000円だったとすると、普通の時価総額は
日本たばこ産業の時価総額
= 株価 ✕ 発行済株式数
= 3000円 ✕ 2,000,000,000
= 6兆円
となる一方、浮動株時価総額は
日本たばこ産業の浮動株時価総額
= 株価 ✕ 浮動株数
= 3000円 ✕ 1,124,117,211
= 約3.3兆円
となり、浮動株ベースで計算された時価総額は、通常の時価総額の6割弱まで小さくなるということです。
別の言い方をすれば、株価と発行済株式数がまったく同じ2つの企業があった場合、浮動株比率(= 浮動株数 / 発行済株式数)が異なれば、時価総額は同じでも、浮動株時価総額は異なってくる、ということです。
ちなみに、5年以上前ですが、日本たばこ産業の株式で政府保有分(財務大臣保有分)を売り出すことで、固定株数が減少し、浮動株数が増加するといったニュースがありましたので、ご紹介しておきます。
JT株の政府売り出し分、3月中旬にTOPIX組み入れ
- 2013/2/28付
- 東京証券取引所は28日、東証株価指数(TOPIX)などを算出するために使用するJT(2914)の「指数用上場株式数」を変更すると発表した。政府のJT株売り出しで浮動株が増加することから、この分を指数に組み入れるための措置。現在の指数計算に使う株式数は8億株(指数用上場株式数に浮動株比率0.8を乗じて算出)だが、10億266万6566.4株(増加した指数用上場株式数に浮動株比率0.752を乗じて算出)に変更する。
売り出し価格決定日の翌営業日を指数用上場株式数の変更日とし、その3営業日後を指数の修正日にする。政府売り出し分の売り出し価格は3月11~13日の間に決める予定だ。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
日本経済新聞より引用
最後に
なぜ浮動株時価総額なんてややこしい話をするのだろうと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、株式を投資対象とする投資信託(中でも時価総額ベースのインデックスに投資するインデックス投信と呼ばれるもの)について理解を深めるには必要な話になってきます。
できれば頭の片隅に入れておいて頂ければと思います。