
今の大学生たちは、どのようなキャンパスライフを送っていると思いますか?
「スマホばかり見ている」「サークルやバイトで遊んでばかり」……
もしそんなイメージをお持ちなら、少し認識をアップデートする必要があるかもしれません。
全国大学生活協同組合連合会が発表した「第61回学生生活実態調査」(約1万3,000人回答)の結果から、現代の大学生が直面している「お金」と「生活」のリアルな姿が見えてきました。金融・経済の視点から紐解くと、物価高という厳しいインフレ環境の中で家計をやりくりし、AIという最新テクノロジーを呼吸するように使いこなす、非常に逞しくもシビアな学生たちの実態が浮かび上がります。
今回は、最新データをもとに、今の大学生の「お財布事情」と「ライフスタイル」について、分かりやすく解説します。
1. 収入増を飲み込む物価高。削られるのは「本代」という現実
2025年の調査では、学生の1ヶ月あたりの収入合計は、以下のように維持または拡大傾向にあります。
- 自宅生: 平均72,648円(前年比+4,278円)
- 下宿生: 平均138,070円(前年比+5,930円)
下宿生の収入が過去10年で最高水準となった最大の要因は、保護者からの「仕送り」の増加(平均74,652円)です。親世代も自身の家計が厳しい中、物価高で苦しむ子どもを懸命に支えようとしている様子がうかがえます。
しかし、支出面に目を向けると手放しでは喜べません。下宿生の食費は1ヶ月あたり29,853円と、前年から3,743円も増加しています。学生たちは、この高騰する食費をまかなうために、必死に他の支出を切り詰めています。
そのしわ寄せを最も受けているのが「書籍費」です。2016年以降で初めて1,000円を下回り(下宿生990円、自宅生970円)、学習の根幹であるはずの本代を節約せざるを得ないという、悩ましい状況が浮き彫りになっています。


2. 広がる「給付型」と、消えない「奨学金返済の不安」
学生のキャッシュフローを支える大きな柱である「奨学金制度」にも、2025年に大きな変化がありました。
まず、奨学金を受給している学生の割合が36.8%と、過去10年で最高を記録しました。
特筆すべきは、返済不要の「給付型奨学金」の広がりです。給付型のみを受給する学生は前年の7.3%から15.2%へと倍増しました。また、国公立大学を中心に「授業料の全額免除」を受けている学生も15.7%(前年比+12.1ポイント)と急増しています。

一方で、将来の「負債」となる「貸与型奨学金」を利用する学生の心境は複雑です。貸与型を受けている学生の約7割が将来の返済に不安を感じており、借入額が月10万円を超える学生では、その不安は8割に達します。「将来、自分のお給料で本当に返し切れるのか」という切実な声は、支援の枠組みが広がった今もなお、若者の心に重くのしかかる心理的負担の大きさを物語っています。
3. お金より「時間」が足りない。学びと労働のシビアなトレードオフ
今の大学生にとって、アルバイトはもはや単なるお小遣い稼ぎではありません。約8割(77.4%)の学生がアルバイトをしており、下宿生や寮生においては「生活費」の補填という重要な役割を担っています。

しかし、生活のためにアルバイトに精を出すあまり、「時間の使い方」という新たな悩みが急浮上しています。
「勉強や研究を頑張ると、バイトをする時間がない」
「課題が忙しすぎて十分に稼げず、常にお金が足りない」
このように、学びと労働のトレードオフ(一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ない状態)に苦しむ姿が見て取れます。実際、アルバイトが週15時間を超えると、大学の予習・復習や読書時間が明確に減少するデータも出ています。かつての「お金がない」という物質的な悩みから、現在は「時間が足りない」「心身の不調」といった、自己のリソース枯渇に関する悩みへと質が変化している点は非常に重要です。
4. 利用率9割超!生成AIは「賢い助手」であり「相談相手」
彼らの生活スタイルを劇的に効率化させている要素が、生成AI(ChatGPTなど)です。
驚くべきことに、生成AIの利用経験がある学生は92.2%に達しました。2023年の約47%から、わずか2年で「あって当たり前のインフラ」として完全に定着しています。学修関連のサポートはもちろん、多様な使われ方がされています。
- 翻訳やプログラミングの補助: 英語メールの添削や、コードのエラーチェック
- 相談・雑談相手: 友人には話しにくい悩みの相談や、冷蔵庫の余り物を使ったレシピ考案
学生たちはAIを「賢い補助役」や「気を使わない相談相手」として、見事に使いこなしています。

5. コミュニティの変容:組織から「個のつながり」へ
大学生活の醍醐味である人間関係にも変化が見られます。サークルへの所属率は回復傾向にあるものの、かつてのように「サークルが生活のすべて」という学生は減少しています。
代わって重視されているのが、「趣味・推し活」や、特定の組織に縛られない「豊かな人間関係」です。コロナ禍での制限を経験した彼らは、タイパ(タイムパフォーマンス)や心地よさを重視し、より自分の価値観にフィットする「個別のつながり」を選択する傾向が強まっています。
まとめ:お金の工面から「時間の確保」へ。社会が向き合うべき課題
今回の調査結果を総括すると、今の大学生は「増えた仕送りや奨学金、アルバイト収入を駆使し、高騰する生活費をギリギリで回している」というキャッシュフローの現状が見えてきます。
そして、当面の資金繰りに目処がついた彼らの最大の関心事は、いまや「時間不足」と「将来への不安」にシフトしています。学生たちが本来の目的である「学び」や「豊かな経験」に投資できるよう、社会全体で彼らの「時間のゆとり」をどう確保していくのか。そして、返済負担のない支援をどう継続していくのかが問われています。
激変する経済環境の中で、もがきながらもAIなどの新技術を柔軟に取り入れて生き抜く学生たちの姿。そこには、金融や経済の課題を乗り越えていく日本の未来への、確かな希望も感じられます。