
みなさんは今、老後の生活費をどのような形で受け取るか、具体的にイメージできていますか。
NISAで絶大な人気を誇る「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(いわゆる”オルカン”)ですが、その高配当版となる投資信託が新規設定されることになりました。年1回もしくは3ヶ月毎に年4回、分配金が支払われるタイプです。
このオルカン高配当、年金受け取り世代の方には一定の人気が出るかもしれません。定期的に現金が振り込まれる仕組みは、老後のキャッシュフローを考える上でわかりやすいからです。
ただ、名前に「オルカン」がついているからといって、本家と同じ感覚で選んでよいかというと、少し立ち止まって考えたいところです。両者の違いを整理したうえで、取り崩し世代にとってどちらが使いやすいのかを考えてみたいと思います。
オルカン高配当とはどのような商品か
正式名称は「eMAXIS 高配当全世界株式(オール・カントリー)配当払出型/資産成長型」で、2026年9月30日に設定されます。
分配金を定期的に受け取る「配当払出型」と、分配を抑えて信託財産の成長をめざす「資産成長型」の2本立てで、配当払出型は3月・6月・9月・12月の14日を決算日として、経費などを差し引いた配当等収益を原則として全額分配する設計です。なお、NISAでは成長投資枠のみの対象となります。
以下では、本家オルカンと、今回のオルカン高配当の商品性の違い3つと、家計としての視点1つの合計4つのポイントについてご説明します。
ポイント①:銘柄数が3割弱に絞られている
ベンチマークとなるインデックスは「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス高配当利回り指数(配当込み、円換算ベース)」です。親指数であるMSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスの採用銘柄から、配当の持続性や成長性、財務の質などでスクリーニングをかけたうえで、配当利回りが親指数の1.3倍以上の銘柄を採用する設計になっています。
その結果、構成銘柄数は約713銘柄。本家オルカンの約2,460銘柄に対して3割弱まで絞られており、分散度合いは低下しています。国別の構成比(2026年5月末時点)でも、米国が48.9%と最大ではあるものの、本家の6割強と比べると低く、日本が8.1%、スイスが5.9%と続きます。「全世界」という名前は共通していても、中身の分散のされ方はかなり違う、ということは押さえておきたいポイントです。
ポイント②:トータルリターンは低くなる可能性がある
投資対象として、配当利回りが高い銘柄というのは、一般的に高成長期待が低下している成熟企業などが多くなる傾向にあります。稼いだ利益を事業に再投資するより、株主に還元する段階に入った企業、と言い換えてもよいかもしれません。
そのため、インカムゲイン(配当収入)とキャピタルゲイン(値上がり益)を合計したトータルリターンでは、本家オルカンよりも低くなる可能性があることも確認しておきたいポイントです。「分配金がもらえる分だけ得」ということではない、という点は誤解ないよう理解しておきましょう。
ポイント③:信託報酬は3倍だが、絶対水準は低い
信託報酬は年0.1650%以内(税込)で、本家オルカンの年0.05775%以内と比べると、およそ3倍の水準です。
倍率で見ると大きく感じますが、差は年約0.11%。仮に2,000万円を保有した場合の年間負担差は約2万2千円です(信託報酬率の差のみの単純計算で、実際にはその他の費用も発生します)。低コストにこだわる方には気になる差かもしれませんが、目くじらを立てて騒ぐほどの水準ではないでしょう。
ポイント④:最も大切なのは、ご自身のライフプランにフィットするかどうか
ただ、最も大切なことは、この商品がご自身のライフプラン、ファイナンシャルプランにフィットするかどうかだと考えています。
年金を受け取りながら、資産を取り崩していく場合、毎月必要となる取り崩し額は家計によって異なります。年金収入が20万円、取り崩し額が5万円の人もいれば、年金収入が18万円、取り崩し額が7万円といった人もいるでしょう。
また、60代後半では取り崩し額が5万円だったとしても、70代、80代と高齢になると一般的に生活費は下がっていく傾向がありますから、取り崩し額を少なくしていく可能性もあります。インフレが継続的に進む場合は増やしていく可能性も考えられます。
こういった家計の状況にフィットするキャッシュフローを管理していくことを考えると、投資信託の都合で分配金が決まってしまう商品を買って保有しておくだけ、というのは管理が難しくなってしまうのではないかと考えています。
分配金が必要額より多ければ、使わないお金が課税されたうえで手元に滞留しますし、少なければ結局どこかから追加で現金を用意しなければなりません。「自分で金額を決められない」という点は、取り崩し期には意外と大きな制約になるのではないでしょうか。
課税口座では、分配金より売却のほうが手取りが多くなる
さらに、税金の観点を少しだけ補足しておきたいと思います。課税口座(特定口座など)で保有している場合の話です。
分配金(普通分配金)は受け取った金額の全体が課税対象となり、20.315%が源泉徴収されます。10万円の分配金なら税額は約2万円です。一方、売却して10万円を現金化する場合、課税されるのは値上がり益に相当する部分だけです。1,000万円で購入したものが1,500万円になっている状態で10万円分を売却すると、利益部分は約3万3千円、税額は約6,800円にとどまります。
同じ10万円を手にするのでも税負担にはこれだけの差が出ますので、取り崩しが数十年続くことを考えると、無視できない違いではないでしょうか。なお、NISA口座であれば分配金も売却益も非課税ですので、この点での有利不利はなくなります。
ただし、分配金を受け取ると基準価額はその分下がりますので、生涯を通じた課税総額そのものが変わるわけではありません。売却のほうが有利になるのは、課税が繰り延べられ、その分を運用に回し続けられるという点です。
なお、特定口座での売却時の手取り額は以下のツールで計算できますので、試してみていただけたらと思います。
シンプルに管理するなら、オルカン+定期売却サービスがおすすめ
シンプルに管理するなら、おすすめは通常のオルカンの保有を継続しながら、定期売却サービスを使う方法や、必要な時に必要な額を売却していく方法です。
主要なネット証券では、SBI証券の「投資信託定期売却サービス」、楽天証券の「定期売却サービス」、マネックス証券の「投信定期売却サービス」(2026年7月開始)が利用できます。いずれもNISA口座で保有する投資信託が対象で、サービスの利用に手数料はかかりません(対象は投資信託のみで、ETFは対象外です)。
売却方法は、毎月一定額を売却する「定額(金額指定)」、残高に対して一定率を売却する「定率」、指定した年月までに売り切る「期間指定」から選べるのが一般的です。楽天証券では定率指定を0.01%単位で設定でき、売却上限額を決めたり、売却代金を銀行口座へ自動出金したりすることもできます。SBI証券では売却頻度を毎月・奇数月・偶数月から選択できます。
一度設定してしまえば自動的に指定口座へ入金されますので、「定期的にお金が入ってくる」という点では分配金と変わりません。それでいて金額はご自身で決められ、途中で変更することもできます。年齢とともに支出が変わっていく取り崩し期には、この柔軟性が非常に重要になってくると考えています。
それでもオルカン高配当が向いている場面
とはいえ、オルカン高配当(配当払出型)に意味がないわけではありません。
「元本を取り崩す」ことへの心理的な抵抗が強く、必要な支出まで我慢してしまう方は少なくありません。売却という意思決定をしなくても現金が入ってくる仕組みは、こうした方が資産を安心して使うための助けになります。
また、高齢期には手続きや判断そのものが負担になっていきますので、何もしなくてもお金が入ってくる設計には実務的な価値もあると思います。
商品そのものの優劣ではなく、「ご自身がどちらの仕組みなら無理なく続けられるか」で選んでいただくのがよいのではないかと思います。
まとめ
- オルカン高配当は約713銘柄と、本家オルカン(約2,460銘柄)に比べて分散度合いは低下している
- 高配当銘柄は成熟企業が中心となりやすく、トータルリターンは本家を下回る可能性がある
- 課税口座では、同じ金額を受け取る場合、分配金より売却のほうが手取りは多くなる
- 取り崩し額は家計ごとに異なり年齢とともに変化するため、金額を自分で決められる定期売却のほうが管理しやすい
リタイア期の方は、今後30年程度の時間軸でリタイアメントプランを作成しながら、お金の取り崩し計画を立て、管理・実行しやすい形で実践していくのがおすすめです。
資産形成のゴールは資産を最大化することではなく、そのお金を有意義に使い(ウェルスペント)、ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現することだと考えています。商品選びも、その目的から逆算して考えていただければと思います。
みなさまの資産形成・資産活用の一助となれば幸いです。
※本記事は2026年8月時点で公表されている情報に基づいています。ファンドの内容やコスト、各証券会社のサービス内容は変更される可能性がありますので、実際のお取引にあたっては必ず最新の投資信託説明書(交付目論見書)および各社の公式サイトをご確認ください。運用にはリスクが伴いますので、ご自身の判断と責任において行ってください。
お金についての漠然とした不安、不満など、一人で悩まず、ぜひお気軽にご相談ください。