
信託報酬がゼロの投資信託は、いったい誰が費用を負担しているのでしょうか?
SBI証券が10月1日に発表した、こどもNISA専用の「SBI・ゼロ・オールカントリー・インデックス・ファンド(愛称:ゼロカン)」について、Yahoo!ニュース エキスパートの記事で取り上げました。そこでの結論は、オルカン(信託報酬0.05775%)との差は18年で2万〜8万円ほどで、結果を決めるのはコストより積立額と期間、というものでした。
その後、EDINETに提出された有価証券届出書(2026年10月1日提出)を読むと、発表資料だけでは見えなかった点がいくつかありました。本記事では、届出書から分かったことを整理したうえで、投資家の立場だけでなく、運用会社、SBIグループ、競合という立場からもこの商品を眺めてみたいと思います。
なお、同時に届出のあった「SBI・オールカントリー・インデックス・ファンド」(信託報酬0.055%、以下SBIオールカントリー)もあわせて取り上げます。
届出書で分かった「ゼロでない部分」
Yahoo記事では、信託報酬以外にかかる費用として、監査報酬や株式の売買委託手数料を挙げました。届出書を読むと、もう1つ、有価証券の貸付(貸株)に関する記載があります。
ファンドが保有する株式を貸し出すと、品貸料という収益が入ります。届出書によれば、ゼロカンではこの品貸料の55%(税込)以内を、委託会社(SBIアセットマネジメント)と受託会社が貸付関連報酬として受け取ることができます。受け取る額には、純資産総額に対して年0.5%という上限があります。
つまり、信託報酬は0%でも、貸株を行った場合、その収益の最大で半分強は運用する側に入り、受益者に残るのは45%以上ということになります。届出書には、運用を委託するステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズへの報酬も「ありません」と明記されていますので、ゼロカンで運用する側が得る収益は、この貸付関連報酬だけとなります。
これは受益者が直接支払う費用ではなく、本来ファンドに入るはずの収益の一部が運用側に回る、という性質のものです。実際にどの程度の貸株が行われ、いくらが運用側に入ったのかは、運用が始まってから、運用報告書や有価証券報告書でどこまで開示されるかを含めて確認していく必要があります。
「ゼロ」には条件がある
届出書からは、0%という条件がどのような前提に立っているかも読み取れます。
- 購入できるのは、こどもNISAを利用する場合に限られます
- ファンドを繰上償還できる場合として、純資産総額が10億円を下回った場合に加え、「こどもNISAが改廃された場合」が挙げられています
- 信託報酬率は信託約款で定められており、約款は所定の手続き(重大な変更の場合は受益者による書面決議)を経れば変更できます。書面決議では、議決権を行使しない受益者は賛成したものとみなされます
「18歳以降も保有分は0%のまま」というのは現時点の商品設計です。投資信託は一般に、所定の手続きを経て約款を変更したり、繰上償還したりできる仕組みになっていることは知っておくとよいでしょう。ただし、これはゼロカンに限った話ではありません。ゼロカンに特有なのは、繰上償還できる場合に「こどもNISAの改廃」が含まれている点です。
既存のオルカン(eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー))の目論見書(2026年7月25日使用開始)と比べると、次のようになります。
| 項目 | オルカン | SBI オールカントリー | ゼロカン |
|---|---|---|---|
| 信託報酬(税込・年率) | 0.05775%以内 | 0.055% | 0% |
| 貸株収益のうち運用側の取り分 | 49.5%以内 | 55%以内 | 55%以内 |
| マザーファンド | 3本 (外国・新興国・日本) | 1本 | 1本(SBIオールカントリーと共通) |
| 純資産総額 | 約11.3兆円 (2026年4月末) | 2026年11月17日設定予定 | 同左 |
| 対象となるNISAの枠 | 成長投資枠・ つみたて投資枠 | 両方(予定) | つみたて投資枠のみ (予定) |
| 繰上償還できる基準 | 受益権10億口未満 | 純資産10億円未満 | 純資産10億円未満、 こどもNISA改廃時 |
ゼロカンとSBIオールカントリーは同じマザーファンドに投資しますので、中身の運用は共通です。では、その運用の質はどのように確認すればよいでしょうか。
コストの前に、指数にきちんと連動するかを確認したい
インデックスファンドで大切なのは、信託報酬の低さだけではありません。対象とする指数にどれだけ正確に連動しているか、という運用の質が重要です。
届出書によると、SBIの2本は、原則として指数を構成する銘柄をその時価構成比で組み入れる方法(完全法)をめざすとしています。ただし、ファンドの純資産総額や銘柄の流動性、売買コストなどを考慮して、一部の銘柄で指数に近づける方法(最適化法)を用いる場合があるとも書かれています。株価指数先物や上場投資信託(ETF)を使う場合もあります。
新しく設定されるファンドは、残高が小さいうちは、こうした方法に頼る場面が多くなり、指数との差(トラッキングエラー)が出やすいと考えられます。オルカンとSBIオールカントリーの信託報酬の差は年0.003%ほどですから、指数との差が年0.1%生じれば、信託報酬の差は簡単に打ち消されてしまいます。
運用が始まったら、次の点を確認していくとよいでしょう。
- 運用報告書や月次レポートに載る、基準価額とベンチマークの騰落率の差
- 信託報酬以外の費用も含めた総経費率
- 純資産総額が順調に増えているか
約14兆円の残高と7年以上の実績があるオルカンと比べるには、少なくとも第1期の運用報告書(決算は2027年11月)を待つ必要があります。
運用会社の視点:0%でどう成り立つのか
ここからは、商品を提供する側の立場で考えてみます。
投資信託の信託報酬は、通常、運用会社(委託会社)、販売会社、受託会社(信託銀行)の3者で分け合います。SBIオールカントリーの場合、税抜0.050%の内訳は、委託会社0.0165%、販売会社0.0155%、受託会社0.018%です。ゼロカンでは、この3者の取り分がすべてゼロになります。
一方で、ファンドを運営するには、運用の体制、基準価額の計算、目論見書や運用報告書の作成といった費用がかかります。届出書に掲載されているSBIアセットマネジメントの決算(2026年3月期)を見ると、営業収益は約90億円、営業利益は約22億円です。ゼロカンは、貸株の取り分を除けば、この収益に貢献しない商品ということになります。
それでも成り立つ理由の1つは、マザーファンドがSBIオールカントリーと共通であることでしょう。運用そのものは信託報酬のあるファンドと一体で行われるため、ゼロカンのために追加でかかる費用は限られます。運用会社単体で採算をとるというより、グループ全体で見て意味のある商品として設計されている、と考えるのが自然ではないでしょうか。
グループの視点:0%は「集客コスト」と考えられる
では、グループ全体で見ると、0%にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか。
ゼロカンで0歳から18歳まで積み立てた場合に、もしオルカンと同じ0.05775%の信託報酬がかかっていたら合計でいくらになるかを試算してみます。これは、SBIグループが受け取ることを放棄した金額の目安と考えることができます。前提は、毎月積立、年率5%で運用、信託報酬は毎月の残高に対して計算です。
| 積立額 | 18歳までの信託報酬の合計 (0.05775%と仮定) |
|---|---|
| 月5万円×10年(上限600万円に到達後は保有) | 約6.4万円 |
| 月3万円(約16年8か月で上限600万円に到達後は保有) | 約4.6万円 |
| 月1万円×18年 | 約1.5万円 |
| 月5,000円×18年 | 約0.8万円 |
上限まで積み立てる場合でも約6.4万円、月1万円なら約1.5万円です。上限まで積み立てる家庭は多くないでしょうし、制度が始まる時点ですでに小学生以上の子は積立期間も短くなります(月1万円を9年間なら約0.3万円)。こうした点を踏まえると、制度開始当初は平均的にはざっくり1人あたり1万円前後ではないかと思います。
一方、0歳から始める世代が中心になっていくと2万円前後になり、18歳以降も保有分は0%のまま続くことを考えると、長期では2万〜4万円程度まで増えていく可能性があります(月1万円を18年間積み立て、28歳まで保有した場合で累計約4.1万円)。
NISA口座は1人1口座です。こどもNISAの口座は18歳になると大人のNISA口座に引き継がれますので、子どものうちに口座を開いてもらえれば、その後も長く使い続けてもらえる可能性が高くなります。1人あたり1万〜数万円の負担で、生涯にわたる顧客を早い段階で囲い込めるのであれば、集客のための費用としては十分に見合う、という経営判断なのかもしれません。
18歳以降の新規の積立は、ゼロカンではなく信託報酬0.055%のSBIオールカントリーで行う設計になっています。大人になってからの積立や、親自身の取引から収益を得ていく、という流れも読み取れます。
競合の視点:オルカンは追随できるのか
低コストのインデックスファンドでは、他社が信託報酬を下げると既存のファンドも追随して引き下げる、ということが繰り返されてきました。今回はどうでしょうか。
オルカンの純資産総額は約11.3兆円(2026年4月末)です。信託報酬のうち委託会社の取り分は、1兆円以上の部分で税抜0.0173%ですので、単純に計算すると年間で20億円弱になります。販売会社の取り分(0.0175%)も、ほぼ同じ規模です。
オルカンの信託報酬を0%にすれば、この収益がすべてなくなります。11兆円を超える資産を預かるファンドにとって、それは現実的な選択肢ではないでしょう。
ここにゼロカンの設計の巧みさがあるように思います。こどもNISA専用の新しいファンドとして別建てにすることで、SBI側は既存の商品の信託報酬に手をつけずに「ゼロ」を打ち出せます。一方、すでに大きな残高を持つ側は、同じことをしようとすると、専用ファンドを新たに設定するかどうか、という判断を迫られることになります。
SBIオールカントリーの0.055%も、オルカンの0.05775%をわずかに下回る水準に設定されています。差は100万円あたり年間20〜30円程度ですが、「業界最低水準」という位置づけをめぐる競争は、今後も続いていくのかもしれません。
利用する側は、どう考えればよいか
提供する側の事情を見てきましたが、利用する側の判断は、Yahoo記事で書いたことと大きくは変わりません。
0%は、企業が将来の顧客を迎えるために負担している費用であり、利用者にとって不利な話ではありません。ただ、その金額は18年間で数万円の範囲です。すでにオルカンを保有している方が乗り換える必要はないでしょうし、こどもNISAの口座をどこで開くかは、この程度であればコストの差より、親が長く管理しやすいかどうかを優先してよいのではないかと思います。
金融商品の「ゼロ」や「無料」には、必ず提供する側の理由があります。それを理解した上で、自分の家計にとって使いやすいものを選んでいく、という姿勢が大切ではないでしょうか。
まとめ
- ゼロカンは信託報酬が0%ですが、貸株を行った場合の収益の55%以内は運用側が受け取ります
- 0%は、こどもNISAという制度と信託約款を前提とした条件です。指数との連動や総経費率は、運用開始後に確認が必要です
- 上限まで積み立てても、0%によって運用側が受け取らない金額は18年間で約6.4万円(年率5%の仮定)です
- 1人1口座のNISAで、子どものうちから口座を開いてもらうための費用と考えると、提供する側にとっても合理的な設計といえます
- 利用する側は、数万円の差より、口座の管理のしやすさや、続けやすさを優先してよいと考えています
本記事が、みなさまの資産形成の一助となれば幸いです。
なお、本記事の試算は特定の前提にもとづくもので、将来の運用成果を示すものではありません。特定の金融商品の購入を勧めるものでもありません。運用にはリスクが伴いますので、ご自身の判断と責任において行っていただければと思います。